
気管切開
1988年の3月にインフルエンザにかかって、意識のない状態で病院に運ばれてきた時に、家族の話しによると、まず挿管をされて、呼吸器につながれました。
気管内挿菅とは、通常、口や鼻から気管支の分岐部分(右肺と左肺に分かれる部分)まで管を入れて、気道を確保することです。しかし、時間が経っても、病状が
改善されず、気管切開の手術を行うことになりました。
気管切開とは、簡単に言えば、喉仏の下付近で気管に
つながる直径1センチ位の穴を開けて、気管内に
カニューレを入れて、換気を行う方法です。
換気効率に優れた方法である反面,カニューレが刺激となって、痰が増えて来ます。
最近、カニューレの種類が多く、30年前と違って、発声を
可能にするカニューレもあります。ただ、自分の経験では、長年で使い慣れたカニューレを別のタイプに替えるのは
非常に難しいです。しかし、体型が変わったり、痛みが
出たり、圧迫を感じたりすると、やはりサイズやタイプを
替える必要があるそうです。
私はカフ付きのカューレを使っています。カフとは、
カニューレの先端に付いている小さな風船です。注射器で
ふくらませると、気管を塞ぐ形になり、誤飲した食べ物や
水分が肺に入るのを防ぎます。また口や鼻や気切から空気の漏れもなくなります。でも、膨らませたままだと発声が
不可能です。
カフ付きカニューレを使用している場合は、カフの圧に
十分な注意が必要です。気管壁の圧迫からくる障害を防ぐ
ために、カフはいつも膨らませたままにしないで、1日に
何回かカフの空気を抜いたりすることが大事です。

気管切開はとても痛そうに見えるのですが、実際は特別な刺激がなければ、痛みがありません。
30年が経った今、カニューレ は、身体の一部になり、ほとんど気になることがないのですが、
カニューレ交換が必要なので、それに慣れるまで時間がかかりました。

気管カニューレは、感染予防のために定期的に交換が必要です。その頻度は、カニューレの種類や個人の
身体の状態などによって異なります。
私は外出したり、声を出したりするので、週に一回
交換をしてもらっています。
交換の前に、吸引器やアンビューバックを用意して
置くといいです。私の場合は、まだ少し自発呼吸が
あるので、慌てることも無く、交換できます。
切開部をイソジン液などで消毒してから、カニューレを新品に取替えて、Y 文字で切り込みが入ったガーゼを当てて、ヒモで固定します。
交換してから、気管内の刺激のため、痰が一時的に
増えることがあります。
カニューレ交換を、私の希望で、娘にしてもらって
います。彼女は15歳からやってくれているから、
リラックスが出来て、痛みも少ないです。
カニューレ交換は、呼吸器を使用している人にとって絶対に必要な処置なので、慣れるしかありません。
写真は29年間使用しているカカニューレです。
PORTEX BLUE LINE 9号
普段、カニューレは紐などで強く首の後ろに結んで、固定します。しかし、皮膚が弱い人にとっては刺激で新たな悩みの種になりかねないのです。
私が考えたのは、簡単に家で作れるカニューレの
台座です。素材はどこでも売られているお風呂か
流し台の傷防止のマットです。
いくつか作れば、ガーゼ交換と同時に交換して、
消毒も簡単に出来ます。紐をゆるめに結んでも、
カニューレが固定されるので、気切の刺激も少なく
なります。もう一つメリットがあります。カフを
膨らませなくても、ある程度、カニューレの周りの
空気漏れを防げます。
カフ付きカニューレを使っている場合は、色んな
厚さの台座を作れば、毎回カフの膨らませる位置が
違ってくるので、肉芽の予防にもなります。




気管切開部のガーゼを毎日交換をします。
1)必要な物品
・ 滅菌した切り込みガーゼ(Y字ガーゼ)、消毒液
(最近、使わない方がいいという意見もある)、
綿棒、
2)交換の手順
・ 当ててある気管切開部のガーゼを外します。
・ 気管カニューレの周囲を消毒液で消毒します。
消毒液をつけ過ぎないように注意します。
付着した痰が除かれたかどうかを確認します。
・ 滅菌した切り込みガーゼを当てて、絆創膏で
とめます。ガーゼの向きは皆それぞれだと
思いますが、私はいつも同じ向きにしていません。
・ 気管カニューレの固定用ヒモは、汚れたら、
その時に交換します。(必ず入浴後)
身体を動かすと、どうしてもカニューレも動きます。その刺激で咳が出ることがあります。
私はカニューレをしっかり固定するためにガーゼの
上に小さな台座を入れます。
乾かしてから、さらにアルコール綿花で拭いて、
ガーゼと同時に替えます。その台以外、病院が
用意してくれます。
気管切開していると、カニューレが刺激となり、
痰が増えてきます。今まで吸引は医療行為のため、
吸引することが許されたのが、患者とその家族、
そして看護師だけです。2012年に制度が変わり、
国で定めた研修を受けたら、ヘルパーさんも吸引することが法律で認められました。
吸引の動作自体は、決して難しいものではないのですが、いつも慎重に行わなければなりません。
.痰の吸引に必要な物 (私の場合)
・ 吸引器、吸引カテーテル、セッシ、セッシ立てか 清潔なビンに入った消毒液、蒸留水、 消毒液、
消毒綿

使用している吸引器。
吸引方法
・ 手を石鹸でよく洗ってから、アルコール綿で拭きます。
・ 吸引器のスイッチを入れ、吸引器のチューブを塞いだ状態で吸引圧を調節します。
・ 吸引器のチューブに吸引カテーテルをつないで、先端を不潔にしないように注意します。
・ 吸引カテーテルを閉塞し,吸引カテーテルを気管内の抵抗がない所まで挿入し、少し引いて,
吸引カテーテルを開き、ゆっくりと 回しながら 吸引をします。1回の吸引時間は、
10~20秒 以内とします。長い時間続けると、酸素が足りなくなって苦しくなるので、
痰が多い時には2~3分をあけて、再度吸引します。吸引時の痰の性状にも注意します。
・ 吸引カテーテルを消毒綿で拭いて、薄めた消毒液と蒸留水を吸引し、吸引器のチューブから
外し、カテーテルをバケツに入った消毒液につけます。
吸引瓶の洗い方
・ 瓶に水で薄めた消毒液を口まで入れて、30分ほど放置しておきます。
・ 洗浄時はゴム手袋をはめ、コップ洗浄用ブラシで水洗いします。
・ 洗浄後は瓶の底が隠れるくらいの消毒液を入れます。吸引瓶をセットする時は、パッキンが
きちんとはまっているか確認します。
吸引チューブの消毒
・ 洗面器か専門のバケツに消毒液を作り、注射器でカテーテルの中を通し30分つけて、
水で洗い流します。
・ カテーテルを軽く振って、水を落として、陰干します。
・ カテーテルを滅菌に出します。(使い捨てにするとコストが高い)
スピーチカニューレを使う場合は 、カフの空気を抜かずに声を出せます。カニューレ上部に小さい穴があるので、声帯に空気が送られていて、発声が可能となります。
しかし、空気の量が多くないので、発声が上手く行かないこともあります。

30年前、気管切開をしたら、声が出なくなるのは
当たり前のことでした。
今は、スピーチカニューレ、スピーキングバルブを使用するによって、発声が可能となりました。
気管切開の直後、空気漏れと気管内への異物混入を防ぐため、カフ付きカニューレを使用する場合が
多いです。
私もそうしていましたが、早い内にカフの空気を
抜いたりして、発声の練習を始めたので、少しずつ声を出せるようになりました。
元々、カフの小さいカニューレを使っていたので、カフの空気を完全に抜かなくても、空気漏れを
利用して、普通に話せるようになりました。
カフなしのカニューレを使用するよりも、漏れが
少なく、必要な時に(食事、体調不良、睡眠時
など)カフをふくらませることが出来ます。
しかし、カフなしのカニューレと同じように空気
漏れを防ぐ事が出来ないので、苦しくならない
ために、漏れを想定して1回換気量を850ccまでに上げています。
他に、アメリカの筋ジストロフィーの患者
(デビッド・ミューア氏(1961-1990)に
考案されたスピーキングバルブがあります。
吸気だけを通す一方弁です。スピーキングバルブは、カニューレと呼吸器との間に取り付けます。
付けていない場合は、空気が送られてくる間だけで、声が出ます。次の空気が来るまでの一瞬、声が出なくなります。
スピーキングバルブを使用した場合は、空気が入って来た時から、次の吸気が来るまでの間も
声を出せます。しかし、いくつかのデメリットもあります。
・使用する前に必ず誰かにカフの空気を抜いてもらわなければなりません。
・空気抵抗があるため、苦しくなることもあるので、換気量を上げる必要があります。
・使用後に呼吸器の設定を元に戻してから、カフをふくらまさなければなりません。
・再び使用する前に消毒が必要です。
私は、次のような方法で発声します。
・換気量は元々高く設定されているので、面倒な上げ下げが不要です。但し、一回漏れる量を
ちゃんと測定したほうがいいです。
・カフ付きカニューレを使っています。しかし、カフを少しだけふくらませます。
・呼吸器のモードはアシスト・コントロールです。
・空気漏れを利用して発声します。声を出してない 時に、舌を上あごに密着させて、鼻と
口から空気漏れを塞げます。
最初は意識的にやっていましたが、慣れると無意識的になり、夜でもカフをふくらまさなくても寝れます。最近、体調が悪い時にいつもの空気量2.8㏄をカフに入れて、外にあるバルーンを
クリップで潰すと、中のカフにもっと空気が入ります。食事と声を出したいときにカフの空気を抜いたり、入れたりするのは面倒です。
どの発声方法にもメリットとデメリットがあるので、試してみて、自分に合った方法を
選ぶのが一番良いと思います。