人工呼吸器
何かの理由で呼吸が出来なくなると、生きるために人工呼吸器の手助けが必要です。
私の場合は、筋ジストロフィー症のため、胸を動かす筋肉が弱く、呼吸困難になり、
人工呼吸器を着けることになりました。こんな状態になるまでに呼吸器の存在さえ
知りませんでした。
集中治療室で意識を取り戻した時、口に入っていたチューブを通して、自動的に
空気が送られ、久しぶりに息苦さを感じなかったのです。
しかし、自分の息をコントロールできなくて、かなりの不快感で、これから呼吸器に
慣れるのかと不安でした。少しでも自発呼吸があると、呼吸器とのファイトが起こり
やすいからです。
当時、まだ呼吸器に頼らずに生活が出来ると思っていました。しかし、胸の筋肉が
弱すぎて、気道に入っていたチューブを外してもらったら、再びに意識を失いました。
自発呼吸があったけれども、空気を吐く力がなく、酸素不足となり、意識が戻ら
なかったので、医師に勧められて家族が気管切開に同意しました。
30年前に在宅で呼吸器を使用するのがほとんど不可能でした。当時、呼吸器と
そのメンテナンス料が自己負担で、在宅医療のサポートも全くなかったのです。
それでも家族と色んな方に支えられて、ポータブル呼吸器を購入して、着けたままで
ポーランドのチャーターで日本に帰ってきました。1年間の入院と準備期間を終えて、
1989年に在宅生活を始めました。
平成7年から一般の医療保険が適用されて、人工呼吸器は在宅で安全に使用出来るように
なりました。
使っている呼吸器
1. 電気だけで動くように作られています。
2. 小型・軽量であるため電気があれば、移動も可能です。
3. 内部バッテリーがついています。機種によって、
内部バッテリーの使用時間は異なるので注意が必要です。
4. 外部バッテリーにつなぐことも出来ます。バッテリーの種類に よって、
連続10時間以上の使用可能です。準備しておくと 長時間外出もできます。
5.停電時には内部バッテリーに自動的に切り替えが可能です。
6.車内のシガーライターからも電源をとることが出来ます。
人工呼吸器のモードとは、患者の呼吸を人工呼吸器がどのように補助するかで分類され、
強制換気(調節換気/補助換気)と自発呼吸、それらの組み合わせによりモードが異なります。
各企業が次々に新しいモードを開発しているため、非常に多くの種類がありますが、基本的なモードには
A/C:Assist Control (補助/調節換気)、
SIMV:Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation
(同期型間歇的強制換気)、
Spontaneous (自発呼吸)
A/C:Assist Control(補助/調節換気)
A/Cというモードは、この中の強制換気のみのモードで、自発呼吸がない、もくしは非常に
弱い患者に使用されます。
自発呼吸がない場合、設定された換気回数で、換気量(もしくは吸気圧)や吸気流速(吸う
速さ)、吸気時間、吸気へのタイミング等は全て人工呼吸器に設定された通りに行います
(調節換気)。
私は自発が弱く、換気量が不充分で、胸の筋肉も弱いので、疲れたら、強制換気になるようにこのモードにしています。
自発呼吸が出現している場合は、吸気のタイミングを自発呼吸に合わせて強制換気が
行われます(補助換気)。この強制換気の方法は換気様式により異なります。
換気様式とは
まずトリガーとは、患者の自発呼吸が起こったときに、自発呼吸の吸気を感知して
人工呼吸器が吸気を始める機能です。
換気様式とは、強制換気の入れ方で、PC; Pressure Control (圧規定)とVC; Volume Control
(量規定)の二つがあります。
PCとは、圧規定)と吸気時間を設定する換気様式です。
人工呼吸器は、設定された吸気圧まで速やかに空気を送り、設定された吸気時間内は設定圧を維持し、吸気時間終了時点で呼気となります。
したがって気道内圧は設定以上に上昇する事はほとんどないので、圧障害等の危険性は低く
なりますが、換気量は、患者のコンプライアンスや気道抵抗によって
変化するので、換気量に注意が必要です。
VCとは、1回換気量と吸気流速(吸う速さ)を設定する換気様式です。
人工呼吸器は設定された1回換気量を設定された速さで空気を送ります。したがって回路等にリークがなければ1回換気量は保証されますが、患者のコンプライアンスや気道抵抗によって気道内圧が変化するので、気道内圧に注意が必要です。
設定に関連しているのがI:E比(アイイーヒ)吸気時間と呼気時間の比。
正常では、呼気時間が長くI:E=1:2が正常です。短い吸気時間に決まった量の空気を
入れるには、吸気流速(スピード)を上げる必要があります。吸気流速が上がると気道内圧
上昇につながります。最近の呼吸器では、I:E設定より、吸気時間の設定の方が優先されて
います。
Spontaneous(自発呼吸)モード
A Spontaneuosモードとは、一般にCPAP; Continuance Positive Airway Pressure (持続的気道
内陽圧)と呼ばれており、吸気のタイミング、換気量、吸気フロー、吸気時間、呼気への
タイミング等、全て患者に依存します。
したがって、自発呼吸が認められ、比較的換気量が確保できている患者に使用されます。
自発呼吸に PS; Pressure Support や、TC; Tube Compensation等の機能を付加することで、
自発呼吸のサポートを行うことができます。
SIMV(+PS)――Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation + PS
同期式間欠的強制換気+プレッシャーサポート
自発呼吸があっても回数が少ない、リズムが不規則な患者さんに用いることが多いのが「SIMV」で、最近では前述したPSVを加え、「SIMV+PS」モードとして使われるのが
一般的です。
自発呼吸を検知しながら、タイミングよく強制換気を設定回数だけ送ります。
強制換気のタイミングに合わなかった自発呼吸には、PSVでサポートします。
呼吸回数を多く設定すれば強制換気も可能です。
自発呼吸に合わせて、強制換気を設定回数分だけ送ります。自発呼吸がなければ強制換気を
行うが、1分間10回という設定にすれば、それ以上の強制換気は行いません。そのため
タイミングによっては、自発呼吸に合わせ強制換気が入らないこともあり、その際はPS
(プレッシャーサポート)がかかり呼吸を補助します。呼吸回数の設定によっては強制換気
のみの管理も可能です。
SIMVの強制換気は、量規定と圧規定のどちらかで設定します。量規定の場合は VC-SIMV、
圧規定の場合はPC-SIMVと呼ばれます。注意点としては、自発呼吸の数により、実際の呼吸
回数が変化するのでよく回数をチェックする必要があります。
最近の呼吸器には色んなモードがあるので、試してみる価値がありますが、複雑化しすぎて、自分に合うモードが見つかりにくくなっています。専門の医師でもアドバイスに迷うことが
あります。
1.電源は独立したコンセント(直射日光が当たらない場所)からとります。
2.台を使用する場合は、呼吸器を低い位置に置いた方が望ましい。回路に水が溜まりにくく するためです。台はキャスタ付きだと、より便利になって、ベッドと椅子の周りに
掃除しやすくなります。呼吸器の後に塞がないほうがいいです。
3.回路を固定します。
車椅子の場合
後ろ
横から
前の部分
呼吸器とつながるチューブ類は、1セットで『回路』と言います。回路に含まれている
パーツは色々とあります。正しく接続されているかどうか確認する必要があります。
1. 呼気弁チューブと気道内圧チューブを逆につけると圧がかかりますが、
空気は送られません。
2.ホースがねじられていると、破損の原因になります。
3. 呼気弁から呼気の時に空気が抜けているか確認します。
4.呼吸器と加湿器は正しく接続されているか確認が必要です。
5.回路にバクテリアフィルターを組み込む必要があります。
バクテリアフィルターの交換は、定期的に行います。交換の頻度は機種によって
異なります。私は、外出が多い時に週に1回交換します。フィルターは
保険適用になっています。
6.ホースは身体より低い位置になるように調節します。身体より高いと、水が
気道内に逆流する可能性があります。
7.チューブ類に水が入っていると呼気圧や気道内圧の値が変動してしまいます。
回路の交換を定期的に行わなければ、間違いなく感染の原因になります。
使用済みの回路は、洗えないパーツを外して、水洗いをします。よく乾かしてから
滅菌に出します。週に一回家族に交換をしてもらっています。
回路の結露対策
10月から5月まで外出の時と自宅でも回路が冷えないように手作りカバーを装着します。
カバーはニットサポーター4枚を縫い合わせたもので、週に一回回路交換の時と外出後に
替えます。
装着は簡単です。カバーの中に手を入れて,回路の先をつかんで引っ張れば、チューブを
通します。家では呼吸器の加温加湿器を使っているので、回路と外気の温度差が
大きいなので、回路の中に水滴が溜まります。その結露を少しでも減らすために
カバーをつけています。
そして、夜は必ず回路を掛け布団の下に入れて、さらに冷えないように気をつけています。
加湿の効率を上げるために加湿器にマフラーを巻いて、ウォータートラップを
使わずに、溜まった水を自然に加湿器に戻るようにベッドを高く、加湿器の位置を
低くしています。
呼吸器を使用する場合は、加湿と加温が重要なことです。加湿が足りないと痰が取りにくく、
苦しさの原因になります。
加温加湿器の代わりに、人口鼻を使う人が増えています。確かにその方が管理がしやすく、
便利かも知れないが、私は、外出の時だけ使っています。加温加湿器を使用すると、痰が
とりやすく、季節によって温度調節も出来ます。温度は冬に高く、夏に低く設定しています。
加湿器は細菌が繁殖しやすいので,毎日蒸留水を交換します。加温容器は7日に1回、新しい
ものに取り替えます。蒸留水がいつも十分に入っているかどうか確認が必要です。夏になると、
異常な過熱も危険で、冬は家の中でも気温が低く、乾燥しているので、加湿不足に注意して
います。
加湿すると、回路のチューブ類の中に水が溜まります。水が逆流しないように注意が必要です。
水抜きは1日に何回もしなければなりません。
加湿器の電源と呼吸器の電源は別々になっているため、入れ忘れにも注意が必要です。
在宅で、24時間呼吸器を使用する場合は、日頃から注意が必要です。特に、使い始めは、
何となく不安を感じることが多いだと思います。 安心して使用するために、まず自分の呼吸器のしくみを知るのも大事です。
そして、異常を知らせるアラームが鳴り出したら、介護者が慌てずに対応できるかどうか
重要です。
この30年間、呼吸器の故障は2回だけで、残りの命の危機はチューブの外れか、人のミス
でした。
2週間1回は病院の呼吸器管理の方が点検に来てくださいます。月に1回は業者の方も点検を
行います。そして、年に2回は呼吸器をメンテナンスに出します。その間、同じ機種の代器を
使います。