病歴と合併対策
病名 筋ジストロフィー 肢帯型(LGMD) 2D
内 サルコグリカノパチー
内 重症のアダリン欠損症
発病 5歳
デュシェンヌ型筋ジス(DMD)ではジストロフィンという蛋白が筋肉中に欠損して
います。
アダリンとは,筋細胞膜でジストロフィンと結合している糖蛋白(糖分を含んだ蛋白)を指し,このアダリンが欠損するために筋脱力・萎縮が生じる疾患をアダリン欠損症と
呼ばれている。
DMDと似ている点(3~15(平均8.5歳に発病,15歳以前歩行不可能,20~30歳頃死亡という経過,腓腹筋の仮性肥大,病初期の血清CK著明上昇,心筋障害を認めることが
多い、など)と似てない点(常染色体劣性遺伝で男女ともに発病,知能障害はない,
など)がある。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーに類似した臨床症状と病状進行をたどる。
臨床的観察のみでは,男ではDMDやベッカー型筋ジスと,女では症状の出たのDMD
保因者と診断されてしまう恐れがある。しかし,筋生検筋の検査でジストロフィンは
存在している。このことと原因遺伝子が異なる点が大きな相違点です.アラブ人、
ヨーロッパ人などで報告されてきたが,最近、日本人でも発見されている。
心不全対策
心臓は結局筋肉の固まりであるので、筋ジスの進行に伴って心筋の変性、線維化が進む。心臓の収縮力が低下し、血液を十分送り出せなくなり、うっ血性心不全という状態と
なる。
心電図では後下壁を中心とする心筋障害が多く、心室性期外収縮をはじめとする不整脈も
必ず発生する。利尿剤、ACE阻害剤、抗不整脈剤、βブロッカー等が使用される.
利尿剤について
心臓から十分な血液が出なくなると,腎臓を流れる血液量も減少する。そこで,ある種の
ホルモンが増え腎臓の血液量を増やそうとし,全身の血液量も増加する。それにより,
肺うっ血や全身の浮腫が生じてくる。したがって,利尿剤を使うことで過剰な水分を
体外から排泄し,肺うっ血や浮腫を軽減できる。
血管拡張剤について.
この薬を用いる目的は,動脈や静脈を広げることで弱った心臓の負担を和らげて
心不全を軽くすることです.多くは上記の利尿剤と一緒に使われます。
近年,血管拡張剤の中でも特にACE 阻害剤といった薬が筋ジスの心不全に
使用されるようになった。この薬は血圧を下げる薬(降圧剤)に分類されているが,
筋ジスの場合,極端に血圧を下げることは少なく,むしろ心筋を保護し,心不全を
改善させることを目的として用いられている。この種類の薬は筋ジストロフィー以外も
一般の心不全には多く用いられ,心不全の改善と延命が証明されている。
筋ジスの心不全に対するそれらの効果も最近の研究により明らかにされつつある。
その他として心不全に伴う合併症を予防もしくは治療する薬がある。
心不全の合併症として重要なものは,不整脈と肺梗塞です。不整脈に対しては
種々の抗不整脈剤が用いられている.肺梗塞とは脳梗塞や心筋梗塞と同様に
肺の血管が血の固まりによりふさがってしまう病気で,一般の心不全では血液を
固まりにくくする薬が使われている。しかし,筋ジストロフィーの場合,その効果は
明らかにされていないのです。
上腸間膜動脈症候群、急性胃拡張、腸閉塞(イレウス)
やせが進行してくると生じやすくなる。やせると上腸間膜動脈(SMA)と大動脈・脊椎の
間で十二指腸の横行部(第3部~4部)が挟まれて閉塞してしまう。そのため十二指腸部で
通過障害が起こり、胃部拡張・吐き気・嘔吐などが起こる。食事摂取により増強し、
体位により変化する上部消化管閉塞症状を認める症例では本疾患を疑い、腹部立位
単純X線、超音波検査を施行する。上部消化管造影およびCTにより確定診断に至る。
慢性に経過した症例では栄養不良状態になる。嘔吐、腹部膨満に対しては、胃チューブ
留置による排液、輸液が必要となる。そのほか、平滑筋障害の影響から腸がねじれ、
動きが悪くなったりして、腸閉塞(イレウス)を起こすことがあり、場合によっては
外科手術が必要になる。
血栓症:肺梗塞、脳梗塞
最近、出血性肺梗塞の合併が問題となっている。筋ジストロフィーのほとんどの症例で
大小の肺梗塞が認められる事が判明してくる。
梗塞巣は肺にとどまらず、しばしば腎臓に、そしてまれには脳にも認められます。
この梗塞の原因として考えられるのは血液凝固系異常が高頻度で存在する事が
明らかにされつつある。大きな肺梗塞では即死する症例もあるので、注意が必要です。
血栓を予防するワーファリンという薬も検討されている。
嚥下障害
食事形態の工夫、流動食、栄養補助食品の利用などが大切です。障害が強ければ、
胃チューブによる経管栄養が必要となる。通常は鼻から管を入れる経鼻胃管が
一般的ですが、胃瘻造設も検討される。
急なやせまたは太り
やせは体全体の衰弱の現れであり、急に体重減少か増加がみられるときは心不全が
進行し、全身状態が低下していることが多いです。その患者毎に体重の最低ラインを
設定し、食事量のチェックし、補食などを行う必要がある。食事の不足分は栄養剤に
よる補食などで対応される。
アセトン症
吐き気、悪心嘔吐、食欲低下とともに、尿ケトン陽性となることがある。筋ジス特有の
糖代謝の変化があるものと思われる。治療としては、糖質主体の輸液を尿ケトンが
陰性化するまで続ける。輸液には、ビタミンB剤を混注します。